「着きましたぜ」と、先を歩いていた男が振り返った。
左程高くは無い岩山の頂への道は、赤い泥濘と深い霧に包まれ、時折強い風が吹く。
「ああ」とだけ、息を切らせながら短い返事をして、チャーリー老人は手を挙げた。
湿った冷たい空気を大きく吸って、膝を軽くたたく。
視線を先へ向けると霞みの中にぼんやりと太陽の姿が浮かぶ。
その少し下あたりに、赤い羽根の鳥が一羽だけ飛んでいるのが見える。
傍らでチャーリー老人の腕を引いていたロバートが「もう少しですよ」と微笑みかけ、担ぐように腰に回した腕に力を入れた。
風に混じる懐かしい匂い。
精霊たちの気配。
それらを感じながら老人は奮い立つように山道を上がった。
山頂に立つと濃い霧が海のように広がっているのを見渡せる。
その下にあるはずの谷を流れる川の音が微かに聴こえた。
朽ちて傾きかけた小さなほこらの前に立った男が、「ここです」と小さな岩を指差した。
雨風にさらされ、すっかり小さくなったその岩に、老人は「ああ。ここだ」と懐かしそうに歩み寄り、傍に跪いた。
「ここは?」とロバートが尋ねると、老人はうなずきながら「随分時間がかかってしまった」と岩を撫でたまま答えた。
ロバートの方へ顔を向けると「私は16歳で一度だけ結婚をしたんだ。2日間だけの夫婦だったが・・・この岩はお前にとって母の墓ということになるな」
チャーリー老人はそう話すと、首から小さな石と羽の飾りの付いたネックレスを外し、岩のてっぺんにかけた。
右手で小さな墓の肩を叩きながら「ただいま」と話しかけた。
赤い羽根の鳥は霞む空に浮かんだまま、もう一度短くヒューと鳴いた。